夏休みが終わると、志望校別対策が本格化します。
第1志望校の過去問に、取り組み始めるのが、一般的に、この時期です。
「ようし、夏の成果を試すぞ」
と意気込んで、過去問に挑戦し、合格点をはるか上に見上げ、途方に暮れている方もいるかもしれません。
大丈夫。まだ間に合います。
学校公表の合格最低点は、本番での点数。
時期にすると、1月~2月上旬。
まだまだ、4~5か月あります。
この間、6年生の皆さんは、メキメキと、力をつけていきます。
8月、9月の時点で、合格最低点に届かないのは、仕方がありません。
大切なのは、過去問演習の結果から、何を学び取るか、です。「ふり返り」といってもいいでしょう。
ここで大きな差がつきます。
よくある誤解は、次のようなものです。
「過去問の間違い直しをして、解き方を覚えた。よし、もう1回やってみよう。塾の先生も、過去問は3回繰り返しなさいと言っていたし。」
そして、直しがきちんとできていれば、当然ですが、2回目以降はよくできます。合格最低点もクリヤーできるでしょう。
「よし、いける」
というわけで、次の年度の過去問に挑戦します。
ところが、またもや惨敗。合格点には、全然届きません。
「まあ仕方がない。まだ1年分しかやってなかったし。」
というわけで、直しをして、間違えた問題の解き方を覚え、2回目を解き直します。
直しがきちんとできていれば、当然ですが、今度はよくできます。
「よし、いける」
というわけで、次の年度の過去問に挑戦します。
結果は、惨敗。また直しをして……
ということを、5年分、10年分くり返します。
ところが、塾の志望校別模試を受けると、やはり、合格点に届きません。
「過去問10年分をマスターしたのに、どうして合格点に届かないの?」
と、途方に暮れることになります。
なぜ、このようなことになるのでしょうか?
それは、「過去問10年分をおさえれば、入試問題はそこから出題される」という誤解をしているからです。
入学試験は、自動車の運転免許の試験ではありません。
運転免許の試験は、道路標識や、交通規則など、一定の知識を覚えている人なら、誰でも全員合格させてくれるものです。競争試験ではありません。
そして、その知識も、マニアックなものではなく、「最低限、これだけは絶対おさえておいて下さい」という基本的なものを、出題します。
その最低限の知識は、くり返し出題されるので、過去問10回分くらいを覚えれば、誰でも合格できるようになっているものと思われます。
つまり、「基本的知識の達成度」を試す試験です。
ところが、入学試験はそうではありません。
「知識の達成度」もさることながら、「思考力」「分析力」、さらには、「勉強態度」「マインドセット」を重視します。
知識が出題されているように見えても、それは、知識を通じて、思考力、分析力や、日頃の勉強態度をチェックしているのです。
単純作業をさせているように見えても、それは、単純作業を通じて、何かの能力を試しているのです。
たとえば、算数では「計算問題」、国語では「漢字書き取り」が出題されることが多いでしょう。
「電卓やエクセルが普及している昨今、単純計算をする意味なんてあるのでしょうか?仕事では紙に筆算で計算する機会なんてないでしょう?」
というご意見もあるかと思います。
「漢字の書き取りで、トメ、ハネ、ハライが厳しすぎるのではないでしょうか?このようなことを暗記させることに、意味があるのでしょうか?」
というご意見もあるかと思います。
スマホの時代です。漢字は「予測変換」のリストの中から、正しいものを選べれば、十分ではないか……
でも、入試では、漢字書き取りが、出題され続けています。
それも、非常に厳しい採点基準で。
これは、もはや、漢字の知識の有無だけを試しているわけではない、ということなのです。
これだけ厳しい採点基準をクリヤーするには、相当な「忍耐力」「注意力」「計画性」「要領の良さ」「漢字のパターン認識力」「記憶の工夫」といった、「総合的な基礎学力」が必要です。
マインドセットといってもいいでしょう。
中学受験の隠れた第5科目。「マインドセット」。
算数の計算問題にも、同じことが言えます。
一つ一つの計算は単純です。
でも、それらがからみ合って、かなりの計算量となり、短い時間内に正確にやり遂げなければならない、となると、様々な能力の組み合わせになります。
分数と小数の混合計算では、分数に合わせるのか、小数に合わせるのか?
といった判断力は、かなりの知能を必要とします。
ミスを防ぐには、どのポイントに注意すればよいか?
という問題を解決するには、「自分自身の性質をよく知る」という、苦痛と困難に向き合う必要があります。
(簡単に言うと、間違い直しは、非常に不愉快ということです)
そういうわけで、たかが計算、たかが漢字書き取りではありますが、これらを見事にやり遂げるには、マインドセットができていなければなりません。
算数の計算問題や、国語の漢字書き取りで、高得点が取れる子は、マインドセットができている。
だから、入学後も、伸びる。
逆に、計算問題や、漢字書き取りができない子は、マインドセットができていない。
だから、将来、伸びない。
学校としては、伸びる子を合格させたいのは、当然です。
だから、一見ムダにも見える「計算と漢字」が、多くの学校で、出題され続けているのです。
計算と漢字の出題傾向(出題ナシも含めて)も、実に多様です。
これをチェックするだけでも、その学校が、受験生に何を求めているのかが、浮かび上がってきます。
「理想の生徒像」です。
ですから、過去問で出題された計算問題、漢字問題には、どのような傾向があるのか。
そこを分析し、対策を立てるべきです。
あるいは、過去問演習で、自分が間違えた計算問題、漢字問題には、どのような共通性、傾向があるのか。
そこを分析し、改善点として、日頃の勉強に反映させていくべきです。
それが、志望校の先生方が望んでいる、「理想の生徒像」に近づくための、最短コースです。
これは、応用問題についても、より強く言えることです。
応用問題の解き方を覚えて、その問題が解けるようになっても、その問題自体が、そのままの形で、再び出題される可能性は、まずありません。
そうではなく、その応用問題に含まれている思考パターンを抽出、一般化して、他の応用問題にも適用できる形で、身に着ける必要があります。
この「思考パターン(発想法)の抽出、一般化」こそが、入学試験の受験勉強では、最も大切な肝(キモ)の部分になります。
そして、学校によって、好んで出題する思考パターン(発想法)が、微妙に異なります。
学校ごとの、伝統もあるでしょう。
出題陣に固有の傾向もあるでしょう。
学校全体が、たとえば2020年の大学入試改革などの「制度改革」に備えて、出題傾向を見直す場合もあります。
出題陣が入れ替わったのをきっかけとして、出題傾向が変わる場合もあります。
過去問演習を通じて、そのあたりのことを見抜き、日頃の勉強に反映させていきましょう。
それが、「過去問の取り組み方」です。