今回は、最近、超難関校の間で流行している「和分解」についての話です。
正確に言うと、「連続する1以上の整数による和分解」です。
30=9+10+11=6+7+8+9
のような書き換えですね。
「和分解の解法はシンプルで、答えを求めるだけなら、いとも簡単。」
「でも、解法の根拠が、わかるような、わからないような……肚(はら)の底からわかった気がしない。」
「何か、説明を省略されている気がする……」
こんなモヤモヤをかかえている聡明なるあなた!
そうなのです。この問題を本当に厳密に解説すると、中学校の数学レベル(もしかすると、高校数学レベル)になってしまいます。
でも、超難関校の受験生の中には、中学や高校の数学にバリバリ踏み込んでいる人もいます。
しかも、和分解の証明には、微分積分も三角関数も必要ありません。
中学受験・算数の知識(不等式と植木算・平均算)で説明できます。
思考力のレベルが高校生級という意味です。
というわけで、聡明であるがゆえに、解説のあいまいさに気がついて、かえってモヤモヤしている君!
がんばって、モヤモヤを吹き飛ばしてしまいましょう。
和分解とは、次のような問題です。
問題:30を、連続する1以上の整数の和で表して下さい。(すべての場合を表して下さい)
答え
以上です。他にはありません。
なぜ、他にはないと、断言できるのでしょうか?(ここが最も重要なポイントです)
30ぐらいなら、根性で調べられますが、100とか1024とか2022(来年は2022年です)となると、理論が必要です。
結論を先に述べます。
30の約数は「1、2、3、5、6、10、15、30」です。
このうち、奇数の約数は、1を除くと、3、5、15の3つです。
和分解の方法は、これら3つの「奇数の約数」と、1対1に対応している(結びついている)ので、3通りしかありません。
裏を返せば、約数に1以外の奇数がない整数は和分解できません。(すなわち、2を何回もかけた2,4,8,16....,1024などは、和分解できません)
なぜ、1を除く奇数の約数と、1対1に対応しているのか?
このページでは、その理由をご説明します。
「連続する整数の和」ということは、最低でも、2個の連続する整数の和です。
A+(A+1)=30
Aは小数になってしまうので、ナシです。
3個の連続する整数の和はどうでしょうか?
A+(A+1)+(A+2)=30
A=9
よって、9+10+11=30
今度は、うまくいきました。
このとき、真ん中の整数10は、3つの整数の「平均」になっています。
一般に、連続する整数の個数が奇数個であれば、「真ん中」の整数が存在し、これが連続する整数すべての「平均」になっています。
逆に言うと、ある数を奇数で割っても、商が整数にならない場合、ある数を連続する奇数個の整数の和で表すことは、できません。
では、4個の連続する整数の和で表せるでしょうか?
30÷4=7.5
4個の整数の平均は7.5ですが、偶数個だと、真ん中の整数はありません。
小さい方から2番目の整数と3番目の整数が、7.5をはさんで、向かい合っています。
よって、2番目の整数は7。1番目は6。
よって、6+7+8+9=30
一般に、連続する整数の個数が偶数個の場合、真ん中の整数はなく、連続する整数すべての平均は□.5という小数になります。
逆に言うと、ある数を偶数で割ったとき、商が□.5にならなければ、ある数を連続する偶数個の整数の和で表すことはできません。
この要領で、30を次々と割っていき、商を調べれば、いずれは和分解の方法が全て見つかります。
奇数で割るときは、商は整数。
偶数で割るときは、商は□.5
ここに注目するわけです。
続きを順に調べていきます。(うまくいきそうな部分だけ、抜き出します)
30÷5=6なので、平均は6。
4+5+6+7+8=30
30÷12=2.5なので、平均は2.5
……あれっ。2.5より小さい整数が6個取れません。(ダメ)
30÷15=2なので、平均は2。
……あれっ。2より小さい整数が7個取れません。(ダメ)
30÷20=1.5なので、平均は1.5。
……あれっ。1.5より小さい整数が10個取れません。(ダメ)
結局、冒頭にかかげた3通りしかないことが確認できました。
ですね。
これらが、30の奇数の約数(1を除く)と、どのように1対1対応しているか、解法を見ながら、確認しておきましょう。
「和分解の解法(和が30の場合)」
30の奇数の約数(1を除く)を書き出します。
3、5、15です。
約数は、小さい順に注目します。
「約数3に注目」
30÷3=10(3個の和。平均10)
9+10+11=30
「約数5に注目」
30÷5=6(5個の和。平均6)
4+5+6+7+8=30
「約数15に注目」
30÷15=2(15個の和。平均2)
2より小さい整数が7個取れません。
そこで、個数と平均を反転し、それぞれ「÷2」「×2」をします。
15個を2で割った7.5を平均とします。
平均2を2倍した4を個数とします。
6+7+8+9=30
となります。
以上が、和分解の解法です。
確かに、奇数の約数3個それぞれに、和分解一つ一つが対応しています。
でも、約数15の場合だけ、「反転」という、異なる処理をしています。(反転のくわしい意味は、これから説明します)
つまり、奇数の約数にも、処理方法に、2通りのパターンがあるのです。
でも、ここで疑問が沸(わ)き起こります。
「約数3や、約数5のときには、なぜ反転しなかったのか?
反転していれば、新たな和分解の方法が見つかったかもしれないではないか?」
「約数15のときに、もし反転してもうまくいかなかったら、どうするのか?
奇数の約数の個数と、和分解の個数が、一致しなくなってしまうではないか?」
「奇数の約数に注目するだけで、なぜ、すべての和分解の方法をカバーできるのか?
確かに、奇数個の和については、奇数の約数で割っていけば、カバーできるけれど、偶数個の和は、これでカバーできるのか?」
「今回は、和が30の場合について、事前に調べ上げていたから、3通りしかないとわかっていたけれど、これを奇数の約数の個数に、こじつけているだけではないのか?」
ごもっともです。
興味深いご質問です。
モヤモヤの原因が、ここにあります。
そこで、以下、これらのご質問にお答え致します。
一般に、「ある数」が1以外の「奇数」を約数にもつとき、「ある数」はその「奇数」の倍数です。
そこで、「ある数」を次のように表します。
パターン(1)
「ある数」=P×(2×Q+1)
(P、Qは整数)
(2×Q+1)は、必ず「奇数」になります。Pは「整数」であれば、奇数でも偶数でもかまいません。
さらに、この式のPを2倍し、(2×Q+1)を2で割ると、次のようにも表せます。
パターン(2)
「ある数」=(P×2)×(2×Q+1)÷2
(P、Qは整数)
(P×2)は、必ず偶数になります。
(2×Q+1)÷2は、奇数÷2なので、必ず小数□.5になります。
これらの式の(2×Q+1)の部分に、「奇数の約数」を次々と代入していきます。
すると、これらの式は、次のような意味を表します。
パターン(1)
個数➡(2×Q+1)…奇数個の和
平均➡P…整数
パターン(2)
個数➡P×2…偶数個の和
平均➡(2×Q+1)÷2…小数□.5
前述の約数3、5はパターン(1)の処理をしました。
前述の約数15は、パターン(2)の処理をしました。
「反転」とは、パターン(2)の処理を意味します。
それでは、どのような場合にパターン(1)の処理をして、どのような場合にパターン(2)の処理をするのでしょうか?
それは、PとQの大小関係によって決まります。以下、ご説明します。
パターン(1)になるのは?
個数が(2×Q+1)個の場合、平均Pより小さい1以上の整数が、Q個取れる必要があります。
P>Q……条件①
であることが、必要です。逆に、この条件を満たせば、うまくいきます。
パターン(2)になるのは?
個数が(2×P)個の場合、平均(2×Q+1)÷2より小さい1以上の整数が、P個取れる必要があります。
P個の整数のうち、最大数と最小数の差は(Pー1)です。(植木算)
さらに、最大数と平均(2×Q+1)÷2の間には、0.5のすき間があいています。
よって、
(2×Q+1)÷2>(Pー1)+0.5
Q+0.5>Pー0.5
Q+1>P
ここで、P、Qは整数なので、
P≦Q……条件②
であることが、必要です。逆にこの条件を満たせば、うまくいきます。
条件①(P>Q)を満たす場合は、パターン(1)の処理をします。
条件②(P≦Q)を満たす場合は、パターン②の処理をします。
条件①と条件②で、すべての場合が含まれ、重複はありません。
つまり、PとQの大小関係がどのようなものであっても、必ずパターン(1)か、パターン(2)のいずれかが成り立ち、両方が同時に成り立つことは、ありません。
従って、「奇数の約数」1個に対して、和分解1通りが必ず対応します。
「奇数の約数」1個に対して、和分解が1つも対応しない場合や、2通りの和分解が対応してしまう場合は、ありえません。
補足します。
偶数個の和分解のとき、「ある数」を偶数で割って、平均を求めているように見えます。
でも、商(平均)が小数□.5になるときを探しているのですから、裏を返せば、この商を2倍した「奇数」で割っている、と見ることもできます。
つまり、こういうことです。
「ある数」÷偶数=□.5ならば
「ある数」÷(偶数÷2)=(□.5×2)
「ある数」÷整数=奇数
「ある数」÷奇数=整数
結局、「奇数の約数」で割ることだけを考えれば、全てをカバーできます。
以上をまとめます。
P>Q(条件①)の場合は、パターン(1)の処理をして、「ある数」を奇数個の和で表します。
P≦Q(条件②)の場合は、パターン(2)の処理をして、「ある数」を偶数個の和で表します。
結局、ある数が1以外の奇数の約数をもつとき、すなわち
ある数=P×(2×Q+1)
と表せるとき、P、Qの大小関係がどのようなものであっても、この式1本に対し、和分解1通りが1対1に対応しています。
すなわち、和分解の方法は、ある数の奇数の約数(1を除く)の個数と同じ数だけあります。
さて、これまで「1を除く奇数の約数」と言ってきました。
なぜ、1を除くのでしょうか?
奇数の約数が「1」とは、Q=0の場合です。
このとき、必ずP>Qですから、個数1個の和分解になります。
たとえば30=30
これは和とは言いません。
よって、1を除いたわけです。
最後に、奇数の約数を持たない「ある数」が、和分解できない理由について、補足説明します。
「ある数」を奇数個の和で表すには、「ある数」を「奇数」で割って、「商が整数」になる必要があります。
でも、奇数の約数がないのですから、そのようなことは起きません。
では、偶数個の和で表すことは、できるでしょうか?
「ある数」を偶数個の和で表すには、
「ある数」を「偶数」で割って、「商が小数□.5」になる必要があります。
このとき、「ある数」を「偶数を2で割った数=整数」で割れば、商は「小数□.5を2倍した数=奇数」になります。
でも、これは、「ある数」が奇数の約数を持たないという前提条件に反します。
よって、奇数の約数を持たない「ある数」を偶数個の和で表すことはできません。
以上より、奇数の約数を持たない「ある数」を和分解することは、できません。
理論編(基本)で、2つのパターンをご紹介しました。
パターン1(奇数個の和)
「ある数」=P×(2×Q+1)
パターン2(偶数個の和)
「ある数」=(P×2)×(2×Q+1)÷2
です。
奇数の約数に、どちらの式が適用されるかは、PQの大小関係で決まるということを、ご説明しました。
でも、本来、上の2式は、「同値」です。
「同値」とは、「AならばBである」と、「BならばAである」が、同時に成り立つこと。
パターン2の式は、パターン1の式の右辺に「×2」と「÷2」を同時につけ加えただけです。よって、
「パターン1の式が成り立つならば、パターン2の式も成り立つ」
「パターン2の式が成り立つならば、パターン1の式も成り立つ」
どちらも言えます。
よって、同値である、全く同じことである、と言えるはずです。
それなのに、PとQの大小関係によってパターン1とパターン2を使い分けせざるを得なかったのは、
「平均値と0の間に、必要な個数の整数が取れなければならない」
という制約があったからです。
たとえば、
「30を連続する15個の1以上の整数の和で表して下さい」
という問題で、
30÷15=2
となり、個数15、平均2とすると、0と2の間に整数が7個取れる必要がありますが、取れません。
そこで、個数と平均を「反転」させ、パターン2の式へ移行したのでした。
ところで……
もし、負の数(マイナスの数)まで使ってもよいことにしたら、どうなるでしょうか?
平均値と0の間がどれほど狭(せま)くなっても、気にすることはありません。
なぜならば、マイナスの領域へ、どんどん、はみ出していけばよいからです。
(ちなみに、マイナスの数とは0より小さい数です。
以下、同様です。
引き算は、マイナスの数の「和」とも考えられます。
ー3-2-1=(ー3)+(ー2)+(-1)
などです。)
話を戻します。
もし、「1以上の」という条件がなく、マイナスの数の使用も認められるならば、
「個数15(奇数個)、平均2」
を達成できます。
2ー7=ー5 2+7=9
よって、ー5から9までの和。
-5-4-3-2-1+0+1+2+3+4+5+6+7+8+9
=30
で表せます。ここで、
(-5-4-3-2-1)と(+1+2+3+4+5)は、「鏡に映すように」+ーが打ち消し合って、0。
残りは、6+7+8+9=30
これは、パターン2の式に約数15を代入した結果の
「個数4(偶数個)、平均7.5」
を表しています。
つまり、「個数15、平均2」と「個数4、平均7.5」は、「1以上」という条件をはずしてしまえば、同じことを表しています。
+ーで打ち消し合う部分を「表示」にするか、「非表示」にするかの違いがあるにすぎません。
どちらも、「約数15」から生まれた双子です。
図形的には、次のようになります。
「鏡に映すように」打ち消した部分は、平均(中心)が0。左右の長さは5。
(5個)0(5個)
15個の平均(中心)は2。左右の長さは、左が2長くなった分、右も2長くなって、それぞれ7。
(7 個)2(7 個)
平均(中心)が右へ2移動した上に、右の長さも2長くなれば、右端は4移動します。
「鏡に映すように」打ち消したあとの残りが「4個の和」になるのは、右端が4移動したからです。
奇数個の時の平均Pを2倍すると、偶数個の時の個数P×2になる(反転)とは、図形的には、このことを指しています。
平均(中心)が右へP移動した上に、右がP長くなれば、右端はP×2移動しますね。
それゆえ、「個数15、平均2」と、「個数4、平均7.5」は、必ず同時に起きる、同じ現象の表と裏である、同値であると言えます。
このように、マイナスの数の使用を認めるならば、奇数の約数一つ一つについて、
が、セットで存在します。
これら2つのうち、必ず1つだけが、マイナスの領域にはみ出しています。
条件①P>Q、条件②P≦Q、いずれかに反する方が、マイナスの領域にはみ出しています。
ということは、いったんパターン1、パターン2という区別をやめて、すべてパターン1で統一することも可能です。
言いかえると、すべて「奇数個の和」で表すことが可能です。
その上で、マイナスの領域にまではみ出してしまった場合には、マイナス部分とプラス部分を「鏡に映すように」打ち消します。
残りの部分は、自動的に、パターン2を適用したときの、「偶数個の和」になっています。
他の約数でも、試してみましょう。
30の「奇数の約数」は、他にも3と5がありました。
約数3は、パターン1で処理して「個数3個、平均10」を得ました。
9+10+11=30
では、「マイナスの数」の使用も認めて、約数3をパターン2で処理すると、どうなるでしょうか?
「個数20個、平均1.5」が得られます。
ー8から+11まで20個の和になります。
-8-7……-1+0+1……+8+9+10+11=30
ー8から+8までを「鏡に映すように」打ち消すと9+10+11=30が残ります。
約数5も、パターン1で処理して、「個数5個、平均6」を得ました。
4+5+6+7+8=30
では、「マイナスの数」の使用も認めて、約数5をパターン2で処理すると、どうなるでしょうか?
「個数12個、平均2.5」が得られます。
ー3から8までの12個の和になります。
-3-2-1+0+1+2+3+4+5+6+7+8=30
ー3から+3までを「鏡に映すように」打ち消すと4+5+6+7+8=30が残ります。
このように見てくると、「奇数個の和」か「偶数個の和」かを、ことさらに区別するのは、重要ではなく、とりあえず、すべて「奇数個の和」(パターン1)で表すことができる、とも言えます。
その上で、マイナスの領域にはみ出してしまったときは、マイナス部分とプラス部分を「鏡に映すように」打ち消せば、残りの部分は、自動的に「偶数個の和」になっています。
もっとも、中学入試の「記述式答案」の場合、「マイナスの数」を答案上に書き並べるのは、反則かもしれません。
よって、念のため、パターン2の式も使えるようにしておきましょう。
問題1
35を1以上の連続する整数の和で表して下さい。(すべての場合を表して下さい)
解説・解答
35の奇数の約数(1を除く)は5、7、35
35÷5=7(個数5、平均7)
5+6+7+8+9=35
35÷7=5(個数5、平均5)
2+3+4+5+6+7+8=35
35÷35=1(個数35、平均1)
反転して(個数2、平均17.5)
17+18=35
反転しないと、ー16から18までの和。
ー16から+16までを打ち消して17+18=35とすることもできます。
以上3通り
問題2
60を1以上の連続する整数の和で表して下さい。(すべての場合を表して下さい)
解説・解答
60の奇数の約数(1を除く)は3、5、15
60÷3=20(個数3、平均20)
19+20+21=60
60÷5=12(個数5、平均12)
10+11+12+13+14=60
60÷15=4(個数15、平均4)
反転して(個数8、平均7.5)
4+5+6+7+8+9+10+11=60
反転しないと、ー3から11までの和。
ー3から+3を打ち消して4から11までの和とすることもできます。
以上3通り
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